同期と同居~彼の溺愛中枢が壊れるまで~
「でも……それは、このミストコーヒーに対する、愛情の裏返しだと思うんです。腹が立つのは、私たちの会社を、商品を見限っていない証拠。“もっといい商品を作れる”という期待があるからこそ、意見してくださっているのだと。
私はそれを真摯に受け止めて、これからも皆様に伝え続けていきたいと思っています。まだまだ未熟者ですが、よろしくお願いします」
い、言えた……。
安堵しながらぺこっと頭を下げる。すると勢い余って、目の前の長机にゴツンと額を打ちつけてしまった。
「いた……っ」
は、恥ずかしい……! せっかくちゃんと挨拶できたと思ったのに、今ので台無しだ……。
役職者たちにクスクス笑われるなか、小さくなりながら着席する。
自分の醜態に落ち込んで俯いていると、さっき久我さんから飴を受け取ったときと同じように、机の下で比留川くんの手がちょんちょん、と私の手に触れる。
なんだろう……?と横を向くと、比留川くんは手元の資料を指さす。
その空白の部分に、新たに何か書き足されているようだ。
【カッコよかった。デコ痛そうだけど】
こ、これは……。比留川くん本人からのメッセージ?
カッコよかったって、皮肉……じゃないよね?
比留川くんの横顔はほんの少しだけ口角が上がっていて、めったに見せない表情に胸がきゅう、と鳴いた。
……カッコいいのは比留川くんの方だよ。
そんなメッセージを返す勇気はないけれど、素直にうれしかった。
比留川くんが隣にいてくれてよかった。
ささいな一言をもらっただけなのにすっかり気を取り直した現金な私。
会議室の窓から、満開を迎えた桜の木が覗いている。
……春は、やっぱりワクワクする。
何かが、始まりそうな予感がした。