同期と同居~彼の溺愛中枢が壊れるまで~
歩きながら彼の横顔を眺めていると、ふとこんな質問を投げかけられた。
「難波ってさ。出身どこ?」
会話のレベルとしては、明日の天気を尋ねるのと同じくらい、当たり障りのないものだ。
それなのに、私の心臓は飛び出しそうなほど大きく脈打っていた。
……ここで、本当のことを言うわけにはいかない。
私はある理由で、故郷に関する記憶をかたく封印しているのだ。
「……出身? 生まれも育ちも東京だよ」
「ふうん。……やっぱ、違うか」
違うって、何がだろう。それに、比留川くんが若干残念そうに見えるのは気のせいだろうか。
「違うって、何が?」
「……いや、こっちのこと」
静かにかぶりを振った彼に、それ以上突っ込んで聞くことはできない雰囲気を感じた。
その代わりというわけではないけど、彼自身についてのことを尋ねてみる。
「比留川くんは、どこの人?」
「俺は横浜。新幹線の駅がある方」
わー、私と違って、根っからの都会人! やっぱり、比留川くんみたいな人が彼氏だったら理想だな……。
なんて、彼にも選ぶ権利ってやつがあるけどさ。