同期と同居~彼の溺愛中枢が壊れるまで~
溺愛level∞*愛し愛されて


 * * *


その日嵐と会ったのは、全くの偶然だった。

三十分残業をした私は比留川くんとの約束のために、夕暮れに染まる街を急いで駅に向かっていた。

ヒールを鳴らして早足で歩道を歩いていると、すれ違いざまに声を掛けられた。


「……みちる?」


聞き覚えのある声に、足を止めて振り返る。


「嵐……」


彼の勤務先は銀座のはずだけれど、どうしてここにいるんだろう。

風格のあるスーツ姿の彼は、にこやかに歩み寄ってきて話す。


「会社、この辺なのか」

「うん、すぐそこ……嵐も仕事?」

「ああ。近くの商社にちょっと交渉事があって、今終わったところ」

「そっか」


当たり障りのない会話が途切れると、途端に気まずい空気が流れる。

そういえば、私……嵐を待たせているんだよね。

彼は一緒に岡山に帰ろうと誘ってくれたけれど、あれから私の気持ちは……。


「みちる、少しでいいから時間ないか?」


真面目な顔つきの嵐に問いかけられる。でも今夜は先約があるし、彼はすでに店についている頃だろう。

断ろうと口を開きかけたところで、嵐がさらに続ける。


「せっかちな男だと思われるかもしれないけど、一昨日の返事……聞きたくてさ。もちろん、東京にはまだあとひと月いるけど……みちるの答えはもう決まってるんじゃないかと思って」


< 167 / 236 >

この作品をシェア

pagetop