同期と同居~彼の溺愛中枢が壊れるまで~
溺愛level∞*愛し愛されて
* * *
その日嵐と会ったのは、全くの偶然だった。
三十分残業をした私は比留川くんとの約束のために、夕暮れに染まる街を急いで駅に向かっていた。
ヒールを鳴らして早足で歩道を歩いていると、すれ違いざまに声を掛けられた。
「……みちる?」
聞き覚えのある声に、足を止めて振り返る。
「嵐……」
彼の勤務先は銀座のはずだけれど、どうしてここにいるんだろう。
風格のあるスーツ姿の彼は、にこやかに歩み寄ってきて話す。
「会社、この辺なのか」
「うん、すぐそこ……嵐も仕事?」
「ああ。近くの商社にちょっと交渉事があって、今終わったところ」
「そっか」
当たり障りのない会話が途切れると、途端に気まずい空気が流れる。
そういえば、私……嵐を待たせているんだよね。
彼は一緒に岡山に帰ろうと誘ってくれたけれど、あれから私の気持ちは……。
「みちる、少しでいいから時間ないか?」
真面目な顔つきの嵐に問いかけられる。でも今夜は先約があるし、彼はすでに店についている頃だろう。
断ろうと口を開きかけたところで、嵐がさらに続ける。
「せっかちな男だと思われるかもしれないけど、一昨日の返事……聞きたくてさ。もちろん、東京にはまだあとひと月いるけど……みちるの答えはもう決まってるんじゃないかと思って」