同期と同居~彼の溺愛中枢が壊れるまで~
「部長のところ……一緒に、お酌しに行ってくれませんか?」
「吉沢部長? うん、いいよ。もともと行くつもりだったし」
上座に座る彼を見て快諾した私に、八重ちゃんは妙に照れくさそうな笑みを浮かべた。
……ん? 八重ちゃんって、まさか吉沢部長のこと?
いやいや、確かに素敵な人ではあるけど、彼は既婚者だ。
もしそうなら、先輩として彼女の恋を止めなければ。
八重ちゃんの様子に注意を払いつつ、ふたりで瓶ビールを手に部長のもとへ近づく。
私たちに気付いた彼は柔らかく微笑んでくれて、差し出されたコップにまずは私がビールを注いだ。
「ありがとう。今まで残って仕事してたの?」
コップを傾け、ひとくちビールを飲んだ部長に聞かれる。
「はい。すいません、大事な会に遅れてしまって」
「いや、気にしなくていいよ。昇進したばかりだと、増えた分の仕事を時間内にこなすのは難しいものだからね。俺にも経験あるよ」
部長……。私の未熟さに共感を示してくれるなんて、優しいんだな。
年上の人に失礼かもしれないけど、鼻の下についたビールの泡を拭う姿もなんだか可愛らしいし、既婚者という事実がなければ、確かに魅力的な人かもしれない。
そう思いながらちら、と斜め後ろにいる八重ちゃんを見やると、彼女は緊張したように瓶ビールを持つ手をぷるぷると震わせている。
……やっぱり八重ちゃん、部長のことを?
「ぶぶぶ部長っ!」
どもりまくって瓶の口を差し出す、挙動不審な八重ちゃん。
吉沢部長は不思議そうにしながらも、私の注いだぶんのビールを飲み干し、ふわっと優しい笑みを浮かべて八重ちゃんにコップを向けた。