同期と同居~彼の溺愛中枢が壊れるまで~
東京都港区に本社を構える食品会社、株式会社ミストコーヒー。レギュラーコーヒーの製造に関して業界最大手であるこの会社に、私は勤めている。
本社のほか各地に工場や営業所を持ち、約三千人の社員を抱えるミストコーヒーは、自社製品のほかに、他社のPB製品も幅広く取り扱っている。
例えばここ数年成長目覚ましいコンビニコーヒー。そのなかでいくつかの大手チェーンがミストコーヒーの豆を使っているということは、知らない人も多いだろう。
自社製品が全国に広がっていくことは社員として誇らしいけれど、それと同時に増える“あること”を思うと、私は少し憂鬱になる。
「おめでとーみちる! 相談室のトップなんてすごい!」
どこからともなく現れて明るい声を掛けてきたのは、同期の笹川理央(ささがわりお)だ。
黒髪ロングヘアをバナナクリップでひとつにまとめた長身の美人である彼女は、同じ商品開発部のなかでもお隣にある、企画課に所属している。
「ありがとう。うれしいけど……胃が痛い」
頼りない声で本音を漏らす。すると理央は乱暴に私の肩をバシバシ叩いて、それから掲示板を指さした。
「大丈夫大丈夫! ほら、比留川なんて同期なのに課長だよ?」
「うん。……すごいよね、比留川くん」
しみじみ同調して、私の辞令の隣にある、彼の辞令を見つめた。