同期と同居~彼の溺愛中枢が壊れるまで~
「つーか……荷物、うちの玄関に置きっぱなしだしね」
「あ」
比留川くんに言われて、初めて思い出す。そういえば私、手ぶらで飛び出してきたんだっけ。
ありったけの服を全部あのキャリーケースに詰めてきたから、もしこのまま自宅に戻った場合、着る服がない。
そのことに、今頃気が付くなんて……恥ずかしいやら情けないやらで、私は不貞腐れたように比留川くんを睨む。
「最初から、それわかってて連れ戻しに来たの?」
「まあね。でも、別に荷物がなくたって、俺は難波を捜したよ」
今までただつかんでいるだけだった手を、ぎゅっと握り直される。まるで、普通の恋人同士みたいに。
なにこれ……。ちょっと比留川くん! 手、つなぐとか反則……っ。
とか思いつつ、ちゃっかり彼の手を握り返している素直な私の手。
それにしても、手をつなぐ行為って、こんなに緊張するものだっけ? ……ドキドキして、妙に照れくさい。
少しの沈黙の後比留川くんはベンチから立ち上がり、私もつられるようにして腰を上げる。
「……さて。帰ろっか。俺らの家に」
そうして向けられた笑顔は太陽よりも眩しくて、きゅううう、と胸が痛いくらいにきつく縮むのを感じながら、私はコクンと頷いた。
不安もあるけれど、それ以上に比留川くんと一緒にいたい気持ちの方が強いから。
こうして、私たちの同居生活は幕を開けたのである。