同期と同居~彼の溺愛中枢が壊れるまで~
その日の午後三時頃。
なかなか手ごわいお客様との電話を数件処理してひと息ついていた時、企画課から比留川くんがやってきた。
「難波、今平気? わかったかもしれないんだ、例の風味以上の原因」
「本当? ミストロイヤルの?」
「ああ。一緒に現場来てくれないか?」
「うん、わかった」
首を縦に振って、彼と一緒に相談室を出る。
“現場”というのは私たちのいる本社ビルに併設されている工場のことで、毎日そこで製品のコーヒーは作られている。
その風味を柏木さんをはじめとするコーヒー開発課の人たちはリアルタイムでチェックしていて、基準に満たなければ即廃棄なんて言うこともある。
現場の人たちの目には時々それが横暴に映るらしく、彼らとコーヒー開発はけっこう険悪な関係らしい。
そんなことを思い出しながら、衛生管理のため服の上から簡易的な作業服とマスク、それに帽子を身に着けて工場に入った。
見慣れない機械が並ぶ施設内をキョロキョロとしながら、焙煎したてのコーヒーの香りが鼻をくすぐるのを感じていると、比留川くんはある場所で足を止めた。
そこは小さな倉庫で、これから焙煎されるコーヒーの生豆が保管されている場所だった。
「……これ、さっき現場の人に頼んでいくつか開けさせてもらったんだけど」
壁に立てかけるようにして中がこぼれないようになっている開封済みの麻袋。
比留川くんがその中に手を入れて、薄く緑がかった白い生豆をすくう。