同期と同居~彼の溺愛中枢が壊れるまで~


「まずこれだろ、それで、もうひとつがこっち」


次は違う袋の生豆を手のひらに乗せて、私に見せてくれる。

さっきの豆と同じようで、色合いや光沢が微妙に違うような……。

麻袋を見る限り生産地も銘柄も同じなのに、どうして?

視線だけで問いかけると、袋から手を出し姿勢を戻した彼が難しい顔で話す。


「……たぶん、収穫時期が微妙に違うんだ。うちの会社では収穫してすぐの豆……いわゆる“ニュークロップ”と呼ばれるものしか発注してないはずなんだけど、何かの手違いで少し鮮度の落ちた豆が混じったんじゃないかって」

「なるほど……でも、どうして」

「それは、これから業者に問い合わせてみる。で、ちゃんと原因が明らかになったら、それをどうやってお客さんに伝えるか……難波にはそれを考えてほしい」

「……わかった! 任せて」


今までクレームを入れてくれた人たちにはもちろん個別に対応するとして、広く情報が伝わるようにホームページ上にも載せた方がいいだろうか。近いうちに広報部に相談してみよう。

頭の中で今後の方針を固めつつ、私は隣の比留川くんを見上げて感心する。


「それにしても、よく気が付いたね。工場なんてほとんど入らないのに」

「……前に柏木さんにもらった資料を参考にしながら、製造工程を逆に追っていったんだ。そしたら行き着いたのはまだ手の付けられてない生豆しかなくてさ。ダメもとで中開けてみたら、やっと原因らしいものを見つけて」



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