同期と同居~彼の溺愛中枢が壊れるまで~
「八重ちゃん元が可愛いから、きっと変わるよ?」
「いいんです。私なんか、“ダサい”の化身なんです……」
「ダサいの化身……いやいや、絶対そんなことない!」
やばい。ネガティブモードに突入しちゃうと、けっこう出口までが長いんだよなーこの子。
必死になって、八重ちゃんを励ます言葉をあれこれ探しているときだった。
「難波。そろそろ、時間」
背後から抑揚のない低い声に呼ばれて、反射的に立ち上がって振り向く。
そこにいたのは、おとなりの部署企画課のエース、比留川くんだ。
身長はおよそ百七十五センチ。ふわりとパーマがかった黒髪の無造作ショートヘア、その前髪からのぞく、きりっと直線的な眉。
加えてぱっちり二重の大きな瞳に、妖艶な厚めの唇……八重ちゃん風に言うなら、“カッコいい”の権化(ごんげ)とでもいうところか。
そして彼の後ろには、商品開発部を統括する吉沢部長の姿もある。
今年で四十歳になるらしい彼は年相応の落ち着いた雰囲気を醸し出しているイケメンで、厳しさと優しさを併せ持つ頼れる上司である。
「ゴメンなさい、すぐに行きます」
……そうだ。私も今日から、課のトップなんだ。そんなことを実感しながらてきぱきとデスクに椅子をしまって筆記用具を持つ。
「じゃあ私、会議に行ってくるので。何かあったら内線で呼んでください」
八重ちゃんを含め、私のほかに五人いるお客様相談室メンバーにそう声を掛けてから、吉沢部長と比留川くんの背中に続いてオフィスを後にした。