同期と同居~彼の溺愛中枢が壊れるまで~


安堵を滲ませた彼の横顔に、私もほっとする。

自分の立ち上げた商品に原因不明の風味異常だなんて、見過ごせるわけないもんね。

でも、原因さえわかれば、きちんと対処ができる。これで一件落着かな……。

そう安心していた矢先、私たちの背後から意地の悪い声が掛けられた。


「……やっと気づいたのか。人間の舌なんてやっぱり、そんなもんだよな」


声に反応して、比留川くんとともに振り返る。

二メートルほど先に立っていたのは、工場の作業服に身を包んだ男性社員。

帽子とマスクで顔はよくわからないけれど、声の感じからして四、五十代のベテラン社員といったところか。


「……どういう意味ですか?」


静かに、比留川くんが聞き返す。するとその男性社員は私たちに数歩近づいてきて、偉そうに腕組みをしながら話した。


「現場では、とっくに収穫時期の違いには気が付いていた。焙煎する前にこの目で豆を見るわけだから当然だ。理由はわからないが、ある時期からニュークロップでない豆が混じって納品されるようになったらしい。でも、俺たちはそれをわざと報告せず生産を続けた」


な、なにそれ……現場の人は知っていて、それなのに黙っていたの?

意味が分からなくて、思わず理由を尋ねる。


「なんで、そんなことを……」

「俺はずっと前からあのコーヒー開発課という部署には疑問を持っていてね。奴らの舌を試したんだ。で、その結果がこれだ。奴らは生産中の風味チェックで豆の違いに気が付けずに、商品は世に出てしまった。アンタたちがどこの部署の人間かは知らないが、おおかたクレームでも入ってその原因を調査してるんじゃないのか?」


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