同期と同居~彼の溺愛中枢が壊れるまで~


図星を突かれて、ぐ、と言葉に詰まる。

自然と下を向いてくる視線が、比留川くんが強く拳を握りしめているのをとらえた。

彼も、きっと悔しいんだ……。

コーヒー開発が、わずかな風味の違いに気が付けなかったのは事実。そのせいで、クレームが発生してしまったのも事実。

柏木さん自身も、今回のことは自分たちのミスだと認めているけれど……だからって、彼らが手を抜いた仕事をしているわけじゃない。


「確かに、味覚というものはとても不安定で、個人差だってあると思います。だから、開発の皆さんは日々訓練をしています。それでも、ひとつも間違うことなく完璧な判断を下すのは難しい。そのことを知っているなら、どうして協力しないんですか? 現場から、“収穫時期の違う豆がある”という情報提供があれば、防げるクレームがあったということですよ?」


早口でまくしたてると、男性社員は少したじろぎながらも言い返してきた。


「……現場は、どれだけの量を生産できたかで評価が決まるんだ。つまり、生産量が少なけりゃ少ないほど上に怒られる。なのに、開発の奴らときたら多少の風味の違いで生産を止めやがって……だから俺たち現場はいつまでたっても評価が上がらない」


この人……なんて自分本位なの。

私はお客様相談室で、毎日いろんなお客様からの電話を受けている。商品を褒めてもらえることもあるし、お叱りだって少なくない。

でも、どちらにしろミストコーヒーの商品を愛してくれているからこそ意見してくれるのだ。

そんなお客様たちを裏切るような現場の行為に、私はすっかり頭に血がのぼってしまった。

隣に比留川くんがいるということも忘れ、大声で言い放つ。


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