同期と同居~彼の溺愛中枢が壊れるまで~
工場を出て本社に戻り、ふたりでエレベーターの到着を待っているときに、今まで黙っていた比留川くんがふっと息をついた。
その横顔は苦笑していて、私の方をちらりと見るとこんな言葉をこぼす。
「難波が怒ってくれて助かった。じゃなきゃ俺が切れてた」
「えっ? あんなに涼しい顔してたのに?」
「……難波が顔に出しすぎなんだよ」
そ、そうですか……。
恥ずかしくて身を縮ませる私を比留川くんがクスクス笑う。
そうしていると、目の前で到着したエレベーターの扉が開く。
そこに一緒に乗り込んで、密室に二人きりになった瞬間、比留川くんの手が突然私の髪に触れた。
「さっき、帽子かぶってたからな……ちょっと乱れてる」
ふわりと優しいタッチで乱れた髪を撫でつけられて、心臓が爆発しそうになる。
距離が近いせいで無意識に彼の香りを嗅いでしまうし、なんかもう頭がくらくらして……。
好きです――って気持ちが、体を突き破って出てきてしまいそう。
「比留川くん……」
「ん?」
私から少し距離を取った彼の、優しいまなざしに見下ろされる。
言いたい……でも、まだ早い……?
ぐるぐる迷って、結局あと一歩の勇気が出ず。
「あのね、今夜、後輩とご飯食べてくるから……帰り遅くなる」
「ああ、わかった。後輩って、あの社長といい感じの?」
「そうそう。なんか急展開あったみたいでさ。家帰ったら話すね?」
そこまで話し終えると同時に、開発部のある四階に到着した。
危ない危ない……勢いで告白しちゃいそうだったよ。
高鳴る心臓をなだめつつ、私は頭を仕事モードに切り替えるのだった。