同期と同居~彼の溺愛中枢が壊れるまで~
「比留川くんと難波さんは、同期なんだっけ?」
会議に向かう役職者たちがそろって乗り込み、少し窮屈なエレベーター。
六階に向かってゆっくり動き出すその箱の中で、右隣にいる吉沢部長が小声で尋ねてくる。
「はい。同じ五年目です」
「そっか。会議は年上ばかりで緊張すると思うけど、それなら少し心強いね」
にっこり笑いかけてくれる吉沢さんに、微笑みを返しながらうなずく。
でも、左隣にいる当の比留川くんはしれっと前を向いているだけで、何を考えているのか全く分からない。
まあ、そんなポーカーフェイスなところもカッコいいんだけどね。
エレベーターが目的の階に着くと、人波に押し流されるようにして会議室へ向かった。
今日の会議は係長以上の役職者、およそ二十名が一堂に会する。
そのほとんどが吉沢さんの言うように年上であることはもちろん、議長を務めるのはミストコーヒーの社長、霞京介(かすみきょうすけ)ということもあって、席に着いた時の私はすっかりカチンコチンに固まっていた。
これから、一人ずつ自己紹介と今年度の抱負を述べなければいけないのに、頭の中は真っ白だ。
うう、何を言おうとしていたんだっけ……。
考えている間に、社長の側に座る役職者から順に自己紹介は始まってしまう。
私は冷や汗をかきながら、頭の中の引き出しを空き巣のごとく次々開けていく。
それでもなかなか思い出せないでいると、膝の上で握りしめていた手に、コツンと何かがぶつかった。
それは、隣に座っている比留川くんの手で……。彼はその中から、小さな何かを私の手に握らせた。