君の中から僕が消えても僕は君を覚えている。【完結】


「藤さんにもさっきの理人見せてあげたかったな」

「え?」

「お父さん、余計な事言わないでいいから」


慌てた様子で槙野くんがお父さんに言うけど、お父さんは全く聞いていないご様子。


「ふふ、でっかい声でタクシーっ今すぐ呼んで!って。何事だって思うでしょ」

「そうなんですか?」


ちらっと槙野くんを見ると、恥ずかしそうに顔を背けている。
笑いながらお父さんは続けた。


「話を聞いたら好きな女の子が泣いているから行きたいって言うじゃないか。
そりゃお父さんとしては黙ってられないよなあ」

「好きな女の子とか言ってない。藤さんって言ってた」

「でも、好きな女の子なんだろ?」

「……そうだけど」


お父さんにはバレバレだったわけだ。
てか、そんな風に焦ってくれたんだ。槙野くん。
想像つかない。


私の前にいる時は、そんな取り乱したりしないのに。
もしかしたら槙野くんも私の前ではカッコつけたいのかなって思うと、途端に愛しさが込み上げて笑みが漏れた。


「ふふ」

「何、笑ってるの。藤さん」


キッと槙野くんに睨まれて、私は肩を竦めた。

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