君の中から僕が消えても僕は君を覚えている。【完結】
「その立場になったら……よね。
そうね、ならないわ」
視線を伏せたまま、怜子さんはそう言った。
「でも、凄い凄い好きだったんですよ?」
「うん。でもね、それは昔の話だから。過去が色褪せないのは過去だからなのよ」
「……過去、だから」
私は怜子さんに言われた言葉をぽつりと反芻する。
「そうよ。例え素敵だなって思う事があっても、私は今の幸せを壊してまでその人とどうにかなりたいって思わないかな。
この穏やかな幸せをくれたのは家族である二人でから」
そうやって、本当に幸せそうな顔を見せた怜子さん。
ぎゅうっと私は拳を作る。
泣き出してしまいそうだ。
折角メイクしたのに、泣いちゃダメだ。
これを槙野くんのお父さんに聞いてもらいたいって思った。
不安に思う事も、感じる事もないんだよって。
「槙野くんの事、大事に、します」
涙を堪えながら私はそう答えた。
怜子さんは目をくりくりとさせた後、「お願いね」と優しく笑った。