君の中から僕が消えても僕は君を覚えている。【完結】


どうして、聞けないんだろう。
聞いたらいいのに。


でも、槙野くんは笑っていたから。


嫌な話だったらこんなに綺麗な笑顔なんて見せる事出来ないよね。


不安に思っていると、ふいに槙野くんの手が私の手に触れた。


「藤さん。ちょっと目を閉じて」

「え?えっと、こう?」

「うん」


言われた通りにゆっくりと目を閉じる。
槙野くんは私の手を握り締めたまま。


何だろう?ドキドキしながら、何をされるのか待っていると、温かい何かがオデコに触れた。


思わずぱちっと目を開ける。
すると、目の前に槙野くんの顔があって、心臓が止まりそうだった。


槙野くんはふふって微笑むと、私のオデコに自分のオデコをコツンと合わせた。



「最初で、最後のキス」

「え?」


最初で、……最後?


槙野くん、そう声を出そうとした瞬間。
隣でどーんと大きな音が鳴って、夜空一面に大輪の花が咲いた。

それと一緒に上がる歓声。


槙野くんは花火を見つめていた。
私は花火じゃなくって、明るく照らし出された彼の横顔を見つめる。
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