君の中から僕が消えても僕は君を覚えている。【完結】
「……」
私は唇を噛み締めて、彼の顔を見つめる。
じわじわと涙が込み上げた。
泣きたくなかった。
だけど、無理。これは泣かないなんて無理だ。
滲んだ視界。槙野くんがぼやけていく。
そんな私を宥めるように、槙野くんは穏やかな口調で私に言った。
「僕には自信があるんだ。
また藤さんに惚れてもらう自信」
「……じ、しん?」
涙を指の腹で拭ってくれた槙野くん。
その瞳は酷く優しくて、それが私の胸をぎゅうっと締め付ける。
「僕は藤さんを好きだから。心の底から好きだと思っているから。
だから、僕の力の事とか全て忘れて僕にまた笑いかけて」
「っ、だって、力の事は私が知っててもいいんでしょう?」
「うん、でも、僕はズルをしたんだ」
「……ズル?」
「力の事を打ち明けて君に近付いた。
あわよくば、仲良くなろうと思っていた。
僕は力をきっかけにしようとしたんだ。興味を持ってもらおうと思ってたんだ。
ズルいズルいよ。そうでもしなきゃ、話しかける勇気がなかっただけなのに。
……そんな僕を消してしまいたい」
一気に吐き出した槙野くん。
私の頬を包む手が震えていた。
それと一緒に声も微かに震えていて、その顔は笑っているのに辛そうだ。