君の中から僕が消えても僕は君を覚えている。【完結】
前の走者が抜かそうと、インコーナーに寄ったのはいいけど、そのまま足がもつれて転んでしまったんだ。
それまでせっかく二位だったのにビリになって私にバトンが回って来た。
私は全力を尽くしたと思う。
だけど、結局一位を取れなかったんだ。
もしも一位を取れていたら優勝していた。
だから、私の中であれは後悔の残る走りになってしまったんだ。
そのどこが魅力的なんだろう。
「ビリになったのに、藤さんは挫けなかった。最後の最後まで走ったんだよ。
誰もが諦めかけていたのに、藤さんは最後二位にまで駆け上がった。
一位のすぐ後ろに張り付いていたんだ。
信じられる?ビリだったんだよ?藤さんは僕達にもしかしてって期待を、希望を与えてくれたんだ」
一気にそこまで言った槙野くんは、興奮した自分を落ち着かせるように一度息をつく。
それから私を真っ直ぐに見ると続けた。
「僕にはあの二位は一位以上の価値があった。
胸が熱くなったし、手に汗を握ったんだ。心が震えるってこういう事を言うのかって。
それに。悔しそうに涙ぐむ君の顔が、凄く……凄くキレイだった」
そう言って、ふわっと槙野くんは微笑んだ。