にゃおん、とお出迎え
「参ったなぁ」
雨の音に集中していたから、その声を聞いてびっくりした。
いつの間にかそこにいたのは、大きなおじさん。
体から滴を垂らして、ネコみたいにぶるるって頭を振ってる。
どうしよう。
ミネちゃんは好きだけど、男のニンゲンは怖いなぁ。
逃げようか。でも、濡れるのはイヤよう。
……なんて考えているうちに、その人はあたしに気付いた。
「あ、先客がいたんだ」
予想外に普通に話しかけられたので、あたしも普通にお返事する。
「にゃーお、にゃーおん」
『せんきゃく』ってなあに?
あたしそんな名前じゃないのよ。モカっていうの。
「随分甘ったるい声で鳴くんだな」
そのおじさんがくしゃりと笑う。目が優しいな。ミネちゃんと同じ。
それだけで、もしかしたらいい人かも知れない、なんて思うあたしは単純かしら。
「逃げないなんて人慣れしてんだな」
おじさんはそうポツリというと、ポケットから何か取り出した。
カチャ、ポッ。
小さな音とともに、おじさんの指先から煙が出る。
なんだろうあれ。
細長い棒みたいなの持ってる。
よく道路に落ちてるやつに似てるけど、あれは煙は出ないしもっと短いから、違うものなのかなぁ。
じっと見ていると、その棒みたいなやつから出た白い煙は、どんどんお空にのぼっていった。