にゃおん、とお出迎え
あー、ミネちゃんをいじめたら許さないぞう。
「にゃーおん、みゃおん、みゃおん!」
あんたたち、どこか行きなさいよ。ミネちゃんはあたしといるんだから、あんたたちと遊ぶ暇なんかないんだからね。
あたしは尻尾を立てて、うなりながら鳴いた。甲高い声を出したから、周りの人たちも何事かとこっちを見る。
でも、人って臆病なのよね。ガラの悪い男の人がいると見て取ったら、目を背けるんだもの。
帽子をかぶっているほうの男があたしを睨んだ。
「んだよ、うるせぇ猫だなぁ」
次の瞬間、あたしの目には大きな靴の底が映った。
え、なにこれと思う暇もなく、衝撃がきて体は宙に浮いた。
変な浮遊感のあと、地面に叩きつけられる。
一瞬何が起こったのか分からなかった。
痛みは、地面に体がついてからやってきた。
おでこの辺りがじんじんして、頭がくらくらする。
「いやあっ、モカちゃん! ……なんてことするのよ」
「おっと、あんたのネコか。黒猫なんて不吉じゃん。捨てちゃいなよ」
「やめて。離してよ」
ミネちゃんは、あたしのところに駆け寄ろうとしているけど、男たちに腕を掴まれちゃってる。
「みゃ……」
ミネちゃんを助けてあげたいけど。
頭が痛くて起きられない。
最近、いい人間にばっかり会ってたから、油断しちゃった。
人間には、こんなふうに見た目だけであたしが不吉っていうやつ、いっぱいいるのに。
「やめたまえ」
お店の扉が開いて、低くて鋭い声がした。
「あっ」
「んだよ」
「うちの店の前で暴力沙汰はやめてくれないか」
この声、こぉひぃさんかぁ。
いつもの優しい声じゃないから分からなかったよ。
ねぇ、こぉひぃさん。ミネちゃんを助けてあげてよ。
あたし、なんだか意識が遠くなっていくみたい。
「きゃあああ」
ミネちゃんの悲鳴や、いろんな音が聞こえたけど。
あたしは重たい瞼に耐えられなくて、目を閉じてしまったからそのあとは知らない。