にゃおん、とお出迎え

再びガリガリしていたら、扉が一気に開いて、あたしはコロンと転がった。

痛いわね。何するのよう。


「あれ、ごめんごめん。これはまた随分可愛いお客様だ。赤いリボンがお似合いだね」


そう言って笑ったのは、涼やかな目をした優しそうな男の人。

黒いエプロンかぁ。あたしとおそろいね。
……なんて見上げていたら、大きな手が伸びて、あたしのお腹あたりを掴もうとする。

ちょっと何するの?
馴れ馴れしいわよ。

素早さではあたしの勝ち。
咄嗟に逃げて花壇の陰からこっそり見ると、男の人は目を細めて笑ってた。


「ごめん、ごめん。驚かせちゃったかな?」


目尻にうっすら寄る皺。テレビで見る人にちょっと似てて、笑顔はとっても素敵だなぁ。

それに体からほんのりいい匂いがする。
『こおひぃ』の匂いがするから、『こおひぃ』さんって呼べばいいかなぁ。


「怖くないよ。おいで。可愛こちゃん」


目を合わせたまま、手招きする。


きっとこの人、いい人だわ。

あたしの事「可愛い」っていったし、赤いリボンにも気づいてくれたもん。

このリボンは、あたしのお気に入りよ?
ミネちゃんがくれたの。
黒い毛には赤いリボンがぴったりでしょ?


「にゃぁおん」


ありがとう、の意味を込めて、あたしはお返事する。
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