にゃおん、とお出迎え

ネコのノドが、人間の言葉をお話しできるつくりになってないのが残念。
あたしはあなたたちの言葉が分かるのに、お返事は通じないんだもの。


「可愛い声で鳴くんだなぁ。もう一度鳴いてみてくれないかい?」


あなたが言うならいいかな。
あたしは甘えた声でもう一鳴き。


「にゃぁおん」

「はは。話が通じてるみたいだなぁ。ありがとう、可愛いお客様。だけど残念だ。ここは喫茶店だから、キミを入れてはあげられないなぁ」


『こおひぃ』さんは、指先で何か小さなものを持て余しながら、困ったようにそう言った。


それはなあに? 見せて?

足元に近づいて、甘えた仕草でお願いしてみる。見上げると、『こぉひぃ』さんと目があった。
ああ、あなた、やっぱり素敵ね。

「にゃーおん」

ねえねえ、あたしにそれ、見せてくれない?


「え? これかい?」


そう、それ。

気持ちが通じたのが嬉しくてあたしはもう一度「にゃおん」と鳴いた。

『こおひぃ』さんはあたしに見えるようにしゃがんで広げた手を差し出した。
手のひらで転がるのは、コロンとした小さな黒いもの。


「今日入荷した豆なんだけどね。猫ちゃんでも興味あるのかな」


あたしの色にちょっと似てる。コロコロ転がってて可愛くって、いい匂い。
『こおひぃ』と同じ匂いがするのね?

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