ただあの子になりたくて


思い切って上目遣いに見つめた彼は、シャイにのけぞって私から距離をとる。

恋人なのだから恥ずかしがることもないだろうに、そんなところも可愛く映る。

でも彼はやがて、だけどこんな時に、と口ごもりばつが悪そうに細めた目で外を見やった。

また発揮される彼の残酷な優しさ。

目の前にいる恋人を何故優先しないのだろう。

私は彼の机の上の手に、苛立ちで力がこもる。

「はーい、俺行くー!」

その時、蒼介の体がぐらりと揺らいだ。

思わず目をみはれば、蒼介ががっちりとヘッドロックされている。

「おまっ、拓斗っ……」

「こんな時だから、だろ。元気に行こうぜ」

蒼介を離さないまま拓斗は、飛び切りのナンパな笑顔でウィンクをはじけさせた。


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