ただあの子になりたくて
目の前に広がるのは、お洒落な暗めの壁に、別世界に来たような薄暗い照明。
そんな部屋に、最近はやりのバンドのリズミカルな曲が流れだす。
光るモニターの前では、拓斗がすでにノリノリでステップを踏みながら、マイクを握っている。
私は思わず笑い、手拍子を打つ。
さっきは蒼介に揃えて苦笑いなんてしてみたけれど、今日は完全に拓斗に救われた。
拓斗のあの一押しがなければ、蒼介と一緒に来れなかったかもしれない。
拓斗はチャラそうに見えて、妙なところだけ勘がいい。
私自身の見舞いに行った日、椿になった私を怪しんだのは拓斗だけだった。
だからこそ拓斗には気を付けなくてはいけないのかもしれないけれど、今日は感謝しようと思う。
おかげで、蒼介と放課後にこうして遊べる。
もう何の引け目も感じずに、こうして隣に座ることができる。