ただあの子になりたくて
「あっ、蒼介さ、一緒に……」
「悪い……。俺、用事思い出した」
血の気が引くとは、きっとこのことだ。
蒼介は鞄を片手にすっくと立ちあがっていた。
ふわりとかぶさる前髪が濃く影を作り、彼の綺麗な瞳を隠す。
「ほんとごめん。また今度……」
私はただタッチパネルを握ったまま棒立ちになって動けなかった。
口は開いた。
でも喉はもう声を知らなかった。
待ってでも、何ででも、今の私には言える権利があるのに、出ない。
私たちに一瞥もくれずにドアの向こうへ颯爽と消えていく、追えない背中。
幻みたいに消えてなくなる、そばにいてほしい人の姿。
やっと大きく目を見開いた時にはもう遅い。