ただあの子になりたくて
殺風景な通路しか見えないガラスのドアが、音を立てて完全に閉まる。
何故なのだろう。
私はすとんと落ちるように、ソファーに崩れる。
やっと近づいたのに、気まぐれな蝶のように、掴んだかと思うとすり抜けていく。
「何でよ……」
苦しい声が勝手に溢れ出る。
せっかく椿になったのに、こんなはずはない。
信じられない。
私はタッチパネルを投げ出して、そっと頭を抱えた。
「何をそんなに、焦ってんだよ?」
突然の透き通った声が、私の頭を突き刺した。
おもむろに頭を上げる私。
見上げた先には、向かいに一切動かず佇む拓斗の姿。
表情が消え去った青白い顔。
そして、拓斗の薄い唇が静寂の中開いた。
「椿、お前、本当に椿か?」
私は声もなく硬直する。
目の前には、誰にも歌われないかわいそうなマイクが、テーブルの上に転がっていた。