ただあの子になりたくて
すぐにでもここから逃げるべきだろうか。
私は鞄に手をかけようとした。
けれどその時大きなため息が聞こえた。
「蒼介帰っちまったてのに、2人だけでここにいるのもなんだよな」
私は訝しんで目を細め、彼を見た。
拓斗は命の髪をわしわしとかき混ぜ、私に投げやりな視線を送る。
「そんな顔されてたら、俺がたまんねぇだろ……」
ぽつり微かにそう言い落した彼は、すぐに素知らぬ顔で鞄を拾い上げる。
「おごるから、なんか食いに行くか」
鞄を肩に背負いあげた彼は、首を傾げてキラリと笑う。