ただあの子になりたくて
けれど、もう全部遅いのだ。
私はもう、自分として生きることをやめた。
彼のあの言葉だって、本当の私の感情とは絶対に重ならない。
彼は、あんな冴えなくて自分の色がない私にも優しい人だから、そう言っただけ。
だったら、どうせもういない私ならそんなものいらない。
今ある私を、あなたの恋人になった私を、ただ見てほしいだけなのだ。
私は女子トイレが見えてくるなり駆け込んだ。
ひんやりとしていて誰もいない空間。
思い切りひねった蛇口。しぶきを上げる水。
一思いに水をすくって顔へ浴びせれば、涙とも水とも知れない雫にまみれた私が、鏡越しに見つめていた。
もう椿にも見えない、私がにじみ出たやつれた顔。
私はそれを隠すように、冷たい鏡に手をついた。