ただあの子になりたくて
今の私では、無理に蒼介と一緒にいたところで、うまくいきはしないだろう。
少し頭を冷やさなくては。
私は自分の足元に視線を下げたまま、席をあとにする。
「えっ……」
そう思ったのだ。
確かに決心したのだ。
でも、私の耳は誰よりも敏感だった、彼の声には。
はやく帰ろうとざわめく椅子の音があっても、ふざけあう声が飛び交っていても、その声だけはまるで私の耳に飛び込むように入ってくる。
そんな短い声でもわかるなんて、私の体は不便だ。
自動的に足は止まる。
後悔先にたたずとはよく言う。