ただあの子になりたくて
そのまま歩き去ってまえばよかったなんて、とうに手遅れなこと。
清潔で少し大きな上履きが、私の爪先でぴたりと止まった。
私はもうその場にくぎ付けだ。
彼から逃れるなんてこと、私にはできない。
嫌な予感ほどよく当たるものだと思う。
世界はそういう風に、残酷にできている。
彼の焦って荒くなった息が私の耳にかかった。
「なずなが……危篤だって……」
その声は案外すんなりと入ってきた。
さほど驚きはない。
私は俯くように頷いてみせる。