ただあの子になりたくて


彼の声は迷いなく一直線で、何もかも貫くように駆けていく。

彼が躊躇なく床を蹴りだす。

ずっと私の前に張り付いていた足が、一瞬にして遠ざかる。

離れてほっとしているのに、私は名残惜しく彼がいた場所を見つめてしまう。

そんな矛盾した自分が大嫌いだ。

私はどんどん痛みが増す胸を両手で掻き抱いた。

けれど、それでも彼の言葉にはあらがえない。

頭の中は嫌な感情でいっぱいだった。

大嫌いな自分の顔など見たくない。

自動的に縁が切れた仲の悪い親になんて会いたくない。

いらなくて捨てたものになんて、もう二度と顔を合わせたくない。

でも行かなくてはならないのだ。

私は俯いたまま、約束の場所を目指した。


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