ただあの子になりたくて
今日だってお父さんは来ないと思っていた。
それに、体裁が大切なお母さんの、ぼさぼさの髪に、こけた頬、疲れ切ったノーメイクの顔。
蒼介の、お母さんが倒れたという言葉を疑っていたわけではない。
けれど、ここまでとは思わなかった。
その時、蒼介が一瞬にして駆け寄った。
「なずな、大丈夫なんですよね⁉ 助かりますよね……? 絶対、大丈夫ですよね……」
上ずった声が、ベッドの端をつかむ血管の浮き出た腕が、蒼介の全てが必死だった。
お母さんは素肌の顔に白いハンカチを当て、顔を逸らす。
微かにハンカチの隙間から漏れ聞こえてくる嗚咽が耳につく。
するとお父さんの重々しい口が開かれた。