ただあの子になりたくて
私は黙り込み、目をみはる。
拓斗の頬に一筋の涙がこぼれおちる。
ナンパ男の顔はすっかり崩れ切り、鼻を真っ赤に染めた情けない顔で、私を見つめている。
「まともに眠れねぇよ。みんな悔やんでんだよ、そばにいながら何で、何もできなかったんだって」
目頭が急に熱くなる。
知らなかった、拓斗がこんなにも私なんかのことで悩んでいたこと。
胸が張り裂けんばかりに息苦しくなっていく。
そんな情けない私の手を拓斗がそっととる。
「なあ、椿知ってるんじゃないか? あの日の帰り際、何があったのか。何でなずながそんなことしたのか、わかるかもしれない。知ってるなら、教えてくれ」
拓斗が涙にぬれた瞳で私を見つめている。