ただあの子になりたくて
線路わきの雑草が一斉に体をゆすり騒ぎ出す。
大きな鉄の箱が音をまき散らしながら近づいてくる。
私の前を横切っている棒は、頼りなく風で揺らいでいる。
私はその棒を静かに掴んだ。
親も、友達も、恋も、失った。
誰かはくだらないというのだろう。
でも、それだけなくなったら私には十分だ。
棒の下をくぐりぬける。
お母さんだって、拓斗だって、あの蒼介だって、椿がいいのだ。
そこに、私はいない。
ヒロインは、いつだって羨ましくて、憎らしい、椿。
私は、誰の心のど真ん中にもいない。