ただあの子になりたくて
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さあ、今日も日が昇る。
私は手で額にひさしをつけて、眩しい空を見上げた。
曖昧な秋の空ではなく、パキッと晴れた気持ちのいい青い空。
ちょっと寝不足の目にはこたえるけれど、これ以上ないほどのいい朝だ。
私は振り返り、あおぎみる。
隣近所と同じ顔をしたどこにでもありそうな一軒の二階家。
洗濯物も干されていない空っぽららしきその家は、まるで時が止まったようだった。
でも私にとっては唯一無二の、私の帰るべき家。
門柱に取り付けられた黒く細長いポストの口には、はみ出した白色の封筒の角。
私は、自分の手元にある3通の白色の封筒を胸に抱き、太陽に向かって姿勢を正す。
今日は文化祭、演劇の本番。
そして、私の体のタイムリミットの日。
私はもう諦めない。
私は青空の下を、堂々と歩きだした。