ただあの子になりたくて


「健気な君から、片想いの人の心を奪い去っていった、素敵なお友達のあの子の方が」

頭の中が瞬間、真っ白になる。

でも、鼻先で、私の気弱なたれ目が勝ち誇ったようにしなって笑む。

私自身ですら、一度も見たことのない顔。

ぞっとする。

これはもう、私の皮を被った化け物だ。

「やめてよ! ていうか、あっ、あなたは誰⁉」

怯えを悟られないように、声を強く張り上げる私。

片時も目を離さず見つめる私の前で、そいつは私の短い髪の毛先を弄び、首を傾げた。

「誰? 難しい質問だね。僕自身には名前がないんだ。だけど、心外にも人間には何度かこう呼ばれたよ」


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