ただあの子になりたくて


煌びやかなスポットライトが真っ逆さまに見えていく。

世界がふわりとひっくり返る。

私は私に、今、戻る。

私は倒れながら、ニセモノのナイフを握りしめて、自分の胸に思い切り突き刺す演技をする。

会場の歓声に包まれる。

「さようなら……」

私が笑顔で言った声は歓声に溶け込んで消えていった。

これで終わる。

穏やかに瞼の幕を引く。

やっと私は私になれる。

おりゆく幕の隙間には最後まで、憧れ続けたキラキラな光の粒で溢れていた。


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