ただあの子になりたくて


「……わかった。じゃあ、気を付けて帰れよ」

「ああ、拓斗もな」

私は俯いたまま、2人と一人にわかれていった。

ほぼ口を利かない私を、蒼介は咎めることなく連れ、やがて来たバスに乗り込んだ。

一番後ろの座席に連れて行ってくれて、隣に腰かけてもくれた。

そのうちに、彼の住む地名がアナウンスされたけれど、彼は何も言わずにただ座り続けてくれていた。

バスが揺れる。

エンジ色のビロードのベンチシートの上で2人、体が揺らぐ。

その度に、私のことなど思っていないお母さんの苦い記憶が、あいまいに薄らいでいく。

揺れるたびに濃く感じる隣の彼の甘い体温に、お母さんのことも自殺のことも椿のことも、ごちゃごちゃ考えていた頭が、馬鹿みたいにマヒしていく。

私は、悪い女だ。


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