ただあの子になりたくて
とうとうバスは椿の家のそばに着いて、2人で降り、排気ガスを振りまくバスを見送ると、私は彼に言った。
「ありがとう。迷惑かけてごめんね。ここで大丈夫」
ちょっぴり目を丸くする彼を、私は見上げてほほ笑んだ。
これは、平気で罪を重ねてきた私のブレーキ。
このままではどんどん悪い女になる。
もっともっと欲張りになってしまう。
だから今日はここまで。
「無理すんなよ」
はっとして息を止めた。
彼の声がすぐ近くから降ってくる。
頭に、やんわりとかかる重みと、さっきずっと味わっていた優しい温もり。
心臓が飛び跳ねる。
涙がわいてきそうだった。