ただあの子になりたくて


「では、今日話し合いたいのはついに、肝となる配役です!」

私は顔に微笑みを張り付けながら、心の中では失笑していた。

係員が熱すぎる。

何故そんなにも夢中になれるのか、私はたぶん理解できない。

「まずは、花形、人魚姫と王子から!」

係員の宣言に、姫も王子もくそくらえだと心の中で叫ぶ。

自慢ではないけれど、私は人間ですらなかった。

幼稚園の女の子同士のおままごとでは、ペットの犬で、お手に待て、そして一吠えのワン。

お遊戯会では、棒立ちの木よりも更に渋い、岩の役。

もう役ですらないのに、先生に上手ねと褒められた時には、子供ながらに愛想なんていらねぇよとガンを飛ばしそうになった。

こんな私がどうしたら、演劇なんてものに熱くなれるだろう。

きっと絶対に無理だ。

今だって、演劇アレルギーが出そうだというのに。
< 81 / 318 >

この作品をシェア

pagetop