ただあの子になりたくて
「立候補はもちろん、推薦でもいいです! どんどん意見を出してください」
女子係員のハツラツとした呼びかけに、視界の端でゆらりゆらりと手が揺れた。
「はいは~い」
「どうぞ」
指名された女子は、ふんわりとパーマのかかった髪をくるくると指に巻き付けながら、甘ったるい声で言った。
「王子は~……真木蒼介くんがいいと思いま~す」
驚きで反射的に跳ねた手が机にぶつかりそうになる。
私は咄嗟に自分の手をおさえこみ、そのぶりっ子女子を二度見した。
自分の演劇苦手意識が高すぎるあまり、蒼介が王子になるなどそんなこと考えもしなかった。
よくよく考えれば不思議ではないけれど、真面目で素朴で優しい蒼介を煌びやかな王子に重ねたことは、これまで一度もなかった。