ただあの子になりたくて
拓斗らしくもない。あの土曜日の別れ際のよう。
ずっとあの事を気にしているのだろうか。
でも、やっと状況を飲み込んだのか、打って変わってこれでもかと胸を張り、調子よく高らかに笑い立ち上がる。
「ああ、この拓斗様ね! なんたって俺は天然の王子様だからね、ははっ!」
「ないわー。それはない」
すかさず割って入った声に、私はびくりとして振り返る。
背もたれにゆったりと寄り掛かった女子が、貫禄たっぷりにゆっくりと首を横へ振っている。
「人魚姫は自分の命を捨てまで、王子にナイフを突き立てんの、やめんのよ。わかってる?」
私は懸命に苦笑いをこらえた。
言いたいことの予想がつく。
「清水だったら100%思いとどまれないね。躊躇なく刺しちゃうわ」