ただあの子になりたくて
さざ波のように密やかに、けれど絶えずざわめいている。
隣同士で身を寄せ合う女子が、振り返ってまで話す男子が。
そこら中の唇が、独立した生き物になったかのように、一斉にうごめいている。
「さすがに立候補するほど馬鹿になれないわー」
「綺麗だからしょうがないよねー」
「うちの姫はもう決まってるも同然だろ」
「間違いねぇなぁ」
いくつもの視線が、言葉が、私に刺さる。
私はあっと声にもならない息を間抜けに漏らした。
なんて馬鹿なのだろう。
あの地味な見た目のせいで、いつだって損な役回りばかりだった。
綺麗な子がいれば、自分が恥ずかしくて、表になんて決して立ちたくないと思ってきた。