ただあの子になりたくて
急に私へと向けられた女子係員の視線に、私は大慌てで立ち上がり、勢いよく頭を下げる。
「よっ、よろしくお願いします!」
「はい、では、人魚姫の劇は野々原さんと真木くんを中心に頑張っていきましょう! はい、2人に拍手!」
再び起こった華やぐ拍手の中、蒼介はやはりぎこちなく立ち上がる。
雲から顔を出した太陽の光が、眩しく教室の中へ深く入り込む。
私たち2人だけに、スポットライトが当たっているみたいだ。
本物の王子様と、ニセモノの姫に。
でも、もう、ニセモノだなんてそんなことは気にしない。
せっかくの生き直しの人生、私は決して無駄にはしない。
前の私が得られなかったものをたくさん得よう。
私は新しい景色に笑顔で背筋を伸ばした。
まだ鳴りやまぬ拍手。
クラスメイトのたくさんの手が、花のように賑やかに揺れ続けていた。