ただあの子になりたくて


ちょっぴり震えている指を隠すように、背中でいじらしく指を組んで、スカートをひらひら揺らして女の子らしさを振りまきながら、彼に近づいていく。

きっと、とてもあざといだろう。

でも、彼の前で可愛くいたい。

ただ、彼に愛されてみたい。

だから私はぶりっ子の仮面を厚塗りして、今日も罪など知らないふりを決め込むのだ。

「蒼介、お疲れ様」

自信たっぷりににっこりと笑う。

かわいこぶって首を傾ければ、自慢の黒髪がさらりと肩から流れ落ちる。

そんな私に蒼介は顔を上げる。

ふわっとした短髪が、戯れるように揺れる。

そして、低いけど甘くて丸い声に、私の胸はきつく掴まれる。


< 98 / 318 >

この作品をシェア

pagetop