ただあの子になりたくて


「あ、ああ、お疲れ。椿、演技、熱こもってたな。ちょっと意外だったけど、すごかった」

黒く澄み切った瞳が私だけに向けられる。

やはり見ていてくれたのだ。

私が椿だから。

恋人を見ているなんて、当たり前のことだ。

それはわかっているけれど、私は熱くなる頬をおさえて、照れ隠しに笑う。

随分おめでたい考えだろうけれど、私に視線が向くことだけで、私は嬉しいのだ。

「えへへ、ありがとう。ところでさ」

だから猫なで声にしたたかな欲を隠して、図々しく彼の机に手をついた。

もう、遠慮なんてするものか。

「これからどんどん準備忙しくなるし、帰り、どっか遊んでかない、かな?」


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