山下くんがテキトーすぎて。
自然な流れで手が離された。
靴箱から取り出された品のいいグレーのスニーカーがバンッと音を立てて地面に落とされる。
それに足を突っ込む大倉くんを、なんとなくじっと見つめてしまった。
私の視線に気づくとまた柔らかく笑うから、心臓がちょっとだけ、うるさく鳴った。
私もローファーを取り出して同じように足を突っ込むけど、その動きも心なしかぎこちなくなってしまう。
「山下のこと考えてんの?」
静かな声がひと気のない空間に響く。
ふと、感じた。
この人は、本当に私のことを好きでいてくれてるんだと。
なんで今なのかわからないけど、確かに感じた。
好きだって言われて、信じてなかったわけじゃない。
ただ、大倉くんの気持ちはもっと軽いものだと思ってた。
今、目の前に大倉くんの優しい笑顔があって、その瞳の中に映ってるのは私だけ。
「ううん。今は……大倉くんのこと考えてるよ」