山下くんがテキトーすぎて。
「……なに?」
「なんでもない」
「……」
「ちょっと呼んでみただけ」
……何それ。ちょっとずるいよ。
ほどよく掠れた感じとか、胸にぎゅんぎゅんくるよ。
しかもさ、最近「愛音ちゃん」呼びが増えてるよ。なんか響きが甘いよ。
「山下くんの下の名前は……」
「……えっ?」
心なしか、また山下くんの肩が震えた気がした。
「山下くんのこと下の名前で呼んでいい…‥?」
「それ、は……」
ドキリとした。
肩が震えただけじゃない。声までもが弱々しく掠れて、さっきまでと明らかに異なっていて。
「……だめ」
ぽつりとこぼされたその言葉にまた目眩がした。
わけわかんない。なんで?
自分は人の名前呼ぶくせに、私はだめなの?
悲しかった。
「───くん」
その名前を口にしたのと、山下くんが私の口を手のひらで塞いだのは、ほぼ同時。