ひと冬の想い出 SNOW
-ガチャ


「ただいま〜。」


すっかりその挨拶をするのも小鳥遊さんの癖になった。


わたしは味噌汁をかき混ぜながら返事をする。


「お帰りなさい。」


わたしはお椀を取り出して、味噌汁をよそった。


それをガラスの机に置いてあるお箸とご飯と鮭を焼いたものと合わせておく。


時間ぴったり。


何だけど、なかなか上がってこない。


いつもはすぐに上がってくるのに…


「小鳥遊さん?」


わたしが呼びかけながら玄関に向かうと、小鳥遊さんは少し申し訳なさそうな声でこういった。


「うーん、ちょっと助けてもらえると、嬉しいかな?」


助けて?


わたしはその意味がわからないけれど、一応急ぎ足で向かう。


玄関まで付いて、その意味が理解できるとともに、一瞬思考回路が停止した。


小鳥遊さんは苦笑いで頭をかく。


「あ、あははははっ。」


「笑い事じゃないでしょう!」


わたしは洗面所に行ってバスタオルをとってきて、小鳥遊さんに渡し、荷物を受け取った。


車のキーと、びちょぬれのバック。


教科書類は無事なのだろうか?


そういえば今は夏休みか。


というか何故、目の前の店から帰ってくるだけでこんなに濡れるの?


「いいからお風呂はいってきてください!」


「あ、うん。うちシャワーだけでお風呂ないけどね〜。」


何で呑気にいっている小鳥遊さんの背中を押してシャワー室にいれる。


少し待っててもらい生乾きの洗濯物をシャワー室から取り出した。


それからシャワー室で脱いだ小鳥遊さんの服を受け取り洗濯機に入れて回す。


そこまでしてやっと小鳥遊さんはシャワーをあびることができた。


「小鳥遊さんの部屋、入っていいですか?」


シャワーの音にかき消されて半分聞こえなかったけど、確実に「いいよ。」と言ったのは聞こえた。


いつものパジャマと、下着を取るために、わたしは壁をすり抜けて中に入った。


小鳥遊さんの部屋を見るのは初めてだ。


でも、人様の部屋をジロジロ見るなんてこと、決してしない!


わたしは必要なものを持って急いで洗面所に飛び込んだ。


「ひゃあ!」


思わず女の子のような悲鳴をあげて腕で目を隠す。


だって、だって入ったら小鳥遊さん上半身裸で立ってるんだもん!


「ごめんごめん。あ、ありがと〜。」


小鳥遊さんは特に気にする様子もなく持ってきた衣服を受け取った。


わたしは洗面所から飛び出て深呼吸。


落ち着いてから声をかけて荷物の整理に向かう。


「お、おわったら言ってください!」


盛大に声が裏返ってしまったのは、いうまでもない。
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