ひと冬の想い出 SNOW
小鳥遊さんが出てきたあとは、夕ご飯を食べさせ、わたしはリュクと洗濯した服を干した。


そしてわたしは車のキーを置くため玄関に向かう。


玄関について車のキーを置くと、あることに気がついた。


小鳥遊さんは、傘起きを外ではなく中においている。


雨の日は傘を持って帰ってくると必ずそこに置く。


でも、今日はその傘がない。


…もうしかして。


わたしはリビングに行き夕食を美味しそうに食べてくれている小鳥遊さんの目の前に座った。


夕ご飯のいい匂いがわたしの鼻をくすぐる。


そうなのです、匂いは嗅げるのです。


「小鳥遊さん。」


わたしが低い声で問いかけると、小鳥遊さんはバツが悪そうに顔をそらした。


まるで怒られるのが分かってるみたいに。


その仕草も可愛いから、怒るに怒れない。


もう、何度目だろうか。


「今回は誰に貸したんですか?」


「…いや、誰も貸したとは言ってないだろ?」


そういうが本人は目をおよがせている。


本当に嘘が下手な人だ。


「怒りませんから、教えてください。」


その言葉に観念したのか、わたしの目をまっすぐに見て俯き加減に言葉を紡ぐ。


とてもとても小さな声で。


「同学年の、女の子?」


「知り合いですか?」


「いや、知らない人。たまたまお店に来てて?」


小鳥遊さんは普通に言ってのけた。


わたしが「はっ?」という顔でもしたのだろう、小鳥遊さんは慌てて弁解する。


「でも必ず返すって…それに困ってたみたいだから。」


困っている人を放っておけない、温厚な性格。


人に騙されやすく危機感がまるでない。


小鳥遊さんはいい人すぎる。


世の中にはそういう人がいることが重要だけど、わたしとしては、悪い人に騙されないかいつも気が気じゃない。


でも、困っている人を放っておけないというのは、わたしも同感。


「わかりました。また盗まれないといいですね。」


なんだけど、やっぱりこれだけ続くと…。


今月に入って買った傘は三本。


つまり初めからあった一本と追加で買った二本は貸した相手にとられた。


また買った傘も貸しちゃったし。


「警察に行ったらどうですか?」といったものの、「まあ、まあ。相手には何か事情があったのかもしれないだろ?」と言って、新しい傘を買ってくる。


まあ、わたしはいいんだけど、小鳥遊さんは困らないのかな?


「今回はホントに、返してくれると思うよ。」


はぁ。


毎回そう言って、傘は帰ってこないんですけどね。
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